今、日本経済新聞の総合面で「瀬戸際の『高齢』マンション」というシリーズ掲載がされています。背景にあるのは、全国的に「管理」や「修繕」、そして「築年数」にまつわる問題が活発に議論されているからでしょう。かつて新築だったマンションたちが、いま高齢化という新しいステージに差しかかり、持続的な価値をどう保っていくかが、大きなテーマになってきています。
7月4日付の記事では、「『ビンテージマンション』老いて真価」という見出しのもと、東京にある築55年の《秀和恵比寿レジデンス》と、築51年の《高島平ハイツ》が取り上げられていました。これらのマンションが、築50年を超えてもなお魅力を保ち、今なお若い世帯を中心に「住みたい」と言われる理由は何か。それは、立地だけではありません。
この2つのマンションに共通しているのは、住人(=管理組合)の資産意識の高さです。《高島平ハイツ》は管理会社に委託しない自主管理で運営しているとのこと。丁寧に、着実にマンション全体の資産価値を維持してきたその姿勢に学びがありそうです。これこそ、ビンテージマンションと言われ取り上げられる理由でしょう。
ご周知のとおり、不動産の管理状態は「未来の価値」に直結します。もちろん一戸建てでもマンションでも同じことが言えますが、今回はマンションを前提にお話しさせて頂きます。
私たちは、リノベーション前の素材となる物件を「原石不動産」と呼んでいます。言い換えれば、それは「これから磨けば、確かな価値になる」可能性を秘めた住まいのこと。もちろん、各様々な角度から調査するのですが、その一つが「管理組合の意識の高さ」です。
●日々の管理がどれほど丁寧に行き届いているか
●総会でどんな議論がなされているか
●中長期的な修繕計画がきちんとあるか など
それらは、資産価値を守るうえで非常に大切なチェックポイントです。一見して分からないことも多いため、細かな調査が必要になりますが、私たちが「原石不動産」と判断する際の重要な要素であることに変わりはありません。
同じ日経新聞のシリーズの中には、「資金狙われる管理組合」という見出しで、ショッキングな事件も取り上げられていました。
あるマンションで、委託されていた管理会社の社員が、なんと9年間で9億円もの修繕積立金を着服していたというのです。あってはならない話です。記事の中では、「管理を任せるだけでなく、組合自身も資産意識を持つことの大切さ」が提言されていました。まさにその通りだと思います。
不動産は「所有して終わり」ではなく、「所有してからがスタート」なのです。資産は、自分自身で守り、育てていくものです。
マンションは、区分所有の集合体。つまり、一人のオーナーが全てを決められるわけではありません。でも、「よくわからないから」と放棄してはいけません。知らなかった、聞いていなかったでは済まされないのが、多数決の仕組みです。
自分の資産を守りたいなら、総会の議題を読み、議決に参加し、必要であれば提案をする。小さなアクションでも、それが未来の大きな安心につながっていくのだと思います。
少し話は逸れますが、7月20日は参議院選挙投票日です。国政にしても、管理組合にしても、自分の未来をどう託すかという点では根本は同じではないでしょうか。
「たった1票に、何ができるか」と思うかもしれません。でもその1票が、自分の暮らしを守り、家族を支え、未来の選択肢を広げてくれることもある。義務や責任を果たしてこそ、権利は意味を持ちます。
住まいも、社会も。
どちらも「任せきりにしない」姿勢が、未来をつくっていく。そんなことを考えながら、夏の午後、冷たい麦茶を片手に、新聞を読み返しました。